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まあノンフィクションだけでなく、戦争を舞台装置として、そのものの意味を問うたり悲惨さを訴えたりする作品は、映画でも小説でもそれこそ無数に存在するわけですし、僕もそういった作品はそれなりに観てきたつもりです。ですから、原作も含め、この「永遠の0」が、岡田君の人物造形やストーリーに水際立ったところがあったかというと、それはそうでもないと思います。本作がまさに遺作となった夏八木さんはじめ、映画で"零戦生き残り"を演じる俳優の方々は確かに素晴らしかったけれども、むしろ、詳しい人や、色々見てきた・読んできた人ほど退屈に思えてしまう可能性が高い。正直僕も9割方そうだと思います。(いや、いいシーンはいくつもあったし、岡田君批判なんてしないぞ!w)

…と、まあいつもならそんなところなんだろうが、今日はエンドロールで泣いてしまいました。

繰り返しますが、いわゆる深イイ話ですね、とか、岡田君の家族を想うキモチに泣いた、とか、そういうわけではありません。

▼夏八木さんが孫達に語りかける台詞がありました。すなわち、"戦争に生き残った者や家族それぞれに物語がある、自分に起きたこともその中のひとつに過ぎない、皆がそれをいちいち表には出さないだけだ"、というような趣旨のものです。

夏になるとニュースの枕言葉のように耳にする、"減っていく戦争体験者"、というフレーズがあります。聞いている我々にとって、どうもそれは書籍やドキュメンタリーの中の「歴史」、つまり何らかの意思決定をする立場だった人や、特異な体験をした人についての話だと錯覚してしまいがちなのですが、それは自分自身だって歴史と地続きであるということをなかなか自覚しないからだと思うのですね。

近頃、NHKで「ファミリーヒストリー」という著名人の祖父母や曾孫のことドキュメンタリー仕立てにして本人に見せる、という番組が放送されております。無名人の話を、それも家族以外の視聴者が見てどうして面白いんだ、という話ですが、かえって著名人の話よりも感動を覚えてしまう側面が確かにあるかと思います(再現映像がやけに感動的に作られているせいもあるけれど)。あれなどまさに市井の人々が時代の中でどう振る舞ったかということについて、(子孫でさえも)いかに目を向けていないか、あなたは自分の先祖がどうだったのかを知ってるのか?ということを突きつけられる番組です。

翻って僕の周辺について言えば、三年前に亡くなった父方の祖父は、男三人兄弟の末っ子でありました。三人とも出征し、兄二人は戦死しています。まだ幼い子ども(僕にとっての大叔父や大叔母)を残して。いわば映画の主人公、宮部久蔵と近しいような話です。母方の祖母も、お兄さんをガダルカナル島で亡くしています。

ところがその実、祖父や祖母に詳しい話を聞いたのはたったの一度だけ、それも小学校の宿題のための取材でしかありませんでした。決して愉快な思い出ではないだろうことは子ども心にもわかっていたので、気が引けたのですね。
大きくなって、教科書的な知識を得れば得るほど、そんなもの好き好んで話題にしたいわけはないだろうという思いが先に立って、なおさら遠慮してしまうようになってしまったのでした。祖父の葬儀で挨拶をして下さった戦友の方も、そのあと程なくして亡くなられました。

たぶん、我々の世代は大方そんな調子か、あるいはそもそも関心がないか、ということではないでしょうか。父母の世代だって大して変わらないのかもしれません。

▼原作では戦闘や戦局の推移にも詳しく立ち入っているので、(ちかごろ毀誉褒貶が喧しい)百田尚樹氏の史観なり立ち位置なりが滲みでてしまっているように思えなくもない箇所がちらほらあります。それは仕方がないと思うけど。

一方、映画ではその辺りを思い切ってカットして(鈴木ちなみも出席!する合コンというマイルドな設定に置き換えたりw)、まさに岡田君とその家族の歴史を繙くということに焦点が絞られていることもあり、原作の執筆のきっかけであるところの、"戦争体験者が本当にいなくなってしまうことへの危機感"が非常にストレートに伝わってくる作品になっていたのではないかと思います。したがって、映画に関しては、いわゆる"右傾エンタメ"か否かといった議論とはちょっと遠いのではないかと思いました。

※ただし、原作を読んでいないと、戦後、松乃を助けた男の正体が誰なのか、余程注意しないとわかりづらいだろうし、"兵装転換"とか"マジックヒューズ"とか言われても、これはわからないんじゃないか。

▼そんなわけで(結末は知ってましたし)孫の視点で祖父や戦争を描く、というところ、百田氏の意図したところに、実に見事にハマってしまったというべきか、ラストの方は映画そっちのけで、我が家の歴史についてを考え始めてしまいました。
井上真央がいっぱい出てくるあたりなのに、井上真央のことよりも、「果たして昔のことについて死んだ祖父に何も聞かないままで良かったのだろうか、いや聞いた方がいいのだというのは手前の都合ではないのか…?」、果ては歳のせいか「自分は祖父や戦死した親戚に対して恥ずかしくない、善き生を生きているのだろうか俺は」というようなことまでが頭をよぎってしまい、そのまま岡田君の敵空母突入に続くサザン(桑田佳祐曲はいつだってベタなのにズルい)の流れでまんまと涙腺が緩んでしまった、と、こういうわけなんですね。

そういうことで、非常に若い子たちがTwitter上で泣いた泣いたと言っていますが、僕と同じ琴線だったのかどうかは知りません。


▼ちなみに、上映前には、能率手帳に続いて、ザ・プロファイラー(NHK、しかも1/1放送の黒田官兵衛スペシャル)と、岡田君出演CMの連続だった。TV番組の番宣とは驚いた。NHKなかなかすごい。


▼あと、音楽はハゲタカの人だが、空戦のシーンのBGMは紅の豚のそれに似てた。VFXは山崎貴作品だけあってさすがに拘っている。空戦シーンを見ていて思い出したんだが、ルーカス・フィルムの、黒人の戦闘機乗りたちの日本公開は無いのでしょうか?
これ。




▼いや〜、風立ちぬに始まり、解説した新書だの、「永遠のゼロ戦」というギリギリなネーミングのムック本まで出ておりまして、実にゼロ戦ブームな1年でしたね。

僕も春先には航空公園に実物を観に行ったし、プラモも作っちゃいましたし、こんなこと言うとかなり好きな人みたいですけどね。

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▼ついでに、こないだ見た「清須会議」について。
大泉洋が非常に素晴らしかった。これは「新選組!」における隊士たちの描き方もそうだったけれど、三谷幸喜の、戦国武将ひとりひとりへの愛情が感じられる作品だった。三谷ファン以上に、時代劇ファンは楽しめると思う(短い感想!)。


▼ま〜、なかなか映画を観に行くヒマが無いのですが、「ゼロ・グラビティ」はぜひ劇場で、とおすすめされてるので観たい。

永遠の0 (講談社文庫)
百田 尚樹
講談社
2009-07-15